
大会趣旨
~第1回東京国際フェンシング大会を終えて~
フェンシングが拓く未来
調布市フェンシング協会、並びにMNHフェンシングクラブは、2025年 8月25日から27日の3日間、京王アリーナTOKYO(武蔵野の森総合スポーツプラザ)にて「第1回東京国際フェンシング大会」を開催しました。会場では国内外から来た約500人の選手たちが、熱戦を繰り広げました。
しかし、私たちが本大会に込めた思いは「多くの参加者を集めること」だけではありません。ここでは私たちが目指す未来と今後の挑戦についてお伝えします。
Part.1
全世代型の大会により共創社会を実現する

スポーツは人々を結びつける
現代では「共創」の重要性が、さまざまな場面でうたわれています。
これまでの「人よりも上に」という考えに基づく競争社会では、複雑化した社会課題への対応が難しくなってきました。そこで、さまざまな人々が互いに協力しながら課題に向き合い、新しい価値を生み出していく———
こうした「共創社会」の実現が、いま強く求められているのです。
とはいえ、共創社会の必要性を言葉で説明されても「何から始めればよいのか分らない」と感じる人も多いのではないでしょうか。
一方で視点を変えてみた時に、街に必要なのは「共通の話題」だと私たちは思っています。
例えば、かつては「ザ・ベストテン」「8時だヨ! 全員集合」などのテレビ番組に代表されるような、世代を超えて盛り上がれる話題が数多く存在しました。
ところが現代では、人々の興味が多様化し、共通の話題は大幅に減ってしまいました。大人と子どもでも流行の傾向は違い、同じ小学校の中でさえ、流行がいくつも分かれることもあります。
さらに、今はWEBやSNSを通じて同じ趣味・嗜好の人と簡単につながることができます。細分化されたコミュニティに属していれば、あえてその他の人々と交流しなくても生活が成り立ってしまうとも言えるでしょう。
そのような状況において、スポーツの果たす役割は非常に大きいと考えています。
例えば、オリンピックを思い浮かべてみてください。
子どもからお年寄りまで、同じ競技を話題に盛り上がることができる。
たとえ言語が通じなくても、一緒に笑い、感動を共有することができる。
挑戦を続ける一人のアスリートの姿が、全世界の人々の心を奮い立たせることができる。
このようにスポーツは、人々を結びつける不変の共通言語であると考えています。
フェンシングを通じて共創社会を体現する
さて、スポーツに取り組む多くの団体は、強い選手を育成すること(=強化)に注力しています。もちろんそれは重要ですが、スポーツの価値はそれだけではないと、私たちは思っています。
前述のとおり、さまざまな人々を瞬時に結びつける力を持つスポーツは、現代社会に求められる「共創」とも非常に親和性が高いものです。
以上のことから私たちは、スポーツを通じて共創社会を体現する場を模索してきました。すなわち、性別や年齢、障がいの有無を超えて、フェンシングに取り組める場をつくること。その想いが結実し、「東京国際フェンシング大会」を開催するに至りました。
本大会では、子どもやベテラン、障がい者が同じ空間・同じスケジュールで競技を行い、フェンシングを楽しむことができました(*)。
海外のパラフェンサーをどのように集めるかなど課題も残りましたが、私たちなりの「共創」への第一歩は踏み出せたのではないかと感じています。
また、今回はジュニア世代とベテランという大まかな区分を設けましたが、将来的には「全世代型」の大会をめざしていきたいと考えています。
(*)本大会のカテゴリー:8歳以下・10歳以下・12歳以下の子どもたち、50代・60代・70代のベテラン世代、15歳以上のパラフェンシング選手
Part.2
世界レベルを体感できる場を

国際大会の前に立ちはだかるハードル
本大会を開催した背景には「日本のフェンサーに世界を体験してもらいたい」という強い想いもありました。
フェンシングは、2008年の北京オリンピックでの太田雄貴選手の活躍以来、徐々に認知度が高まってきました。特に2024年のパリオリンピックでのメダルラッシュにより、競技の人気は飛躍的に向上しました。
フェンシングを習う子どもの数も少しずつ増え、フェンシングを楽しむ人が増えているように感じます。また年齢を問わず始められることから、生涯スポーツとしても注目を集めています。
そんな中で、課題も浮き彫りになってきました。
その1つが「世界にふれる機会の少なさ」です。
フェンシングの競技においては、フランスやイタリアなど強豪国がヨーロッパにあるために、日本選手が世界大会に挑むには、海外遠征が前提となります。そこでネックとなるのが、遠征費用です。
実際にオリンピックに出場するような選手であっても、(一部のトップ選手を除いて)海外遠征費用を自己負担しており、その負担が非常に大きなハードルとなっています。
当然、国内のアマチュアのフェンサーが「海外選手と実戦経験を積みたい」「国際大会に出てみたい」と思っても、海外で開催される大会に出向かねばならず、費用面から参加をためらう人も少なくありません。
日本にいながら「世界レベル」を体感する
私たちは、そんな日本のフェンサーたちの想いを叶えたいと思ってきました。
そこで辿りついたのは、海外の選手に日本に来ていただく機会を創ることでした。
実際に、1人の選手が海外に遠征するよりも、多くの海外選手に日本へ来ていただく方が、日本のフェンサーが享受できるメリットが増えます。より多くの人が世界レベルの戦いや雰囲気に触れることができるからです。
そこであえて「国際(インターナショナル)」と銘打ち、フェンシングの国際大会を日本で開催することに挑戦しました。
蓋を開けて見ると、台湾、韓国、香港、フィリピン、シンガポール、タイ、インドネシア、イギリス、ドイツ、アメリカ、カナダなど、10ヵ国以上・約250人もの選手に参加していただくことができました。
英語のアナウンスが流れ、海外のフェンサーが行き交う会場では、緊張した面持ちの子どもの姿も多く見られました。身体能力が異なる海外選手の戦いを、じっと見つめるフェンサーもいました。
その光景を目にし、日本で国際大会を開催する意義を改めて感じました。おそらく、国内大会では得られないような感覚や発見が、彼らの中にあったと感じられたからです。
この大会に参加することは、自分の実力を試す絶好のチャンスであるとともに、世界の舞台へ挑戦していく準備ともなるでしょう。
何よりこの経験の積み重ねが、彼らの人生の中において、かけがえのない財産になると信じています。
Part.3
フェンサーの心の拠り所になる大会

勝つことだけが目的ではない
日本のスポーツ界には、いまだ「勝利至上主義」が根強く残っていると感じています。
つまり、相手に勝つことを絶対的な目標とし、勝利以外には価値がないとする考え方です。
もちろん「勝つこと」は大きな意義があります。
しかし、現実として大会で1位になれるのはただ1人であり、そのほかの選手は必然的に「負け」を経験します。また、すべての人がプロ選手やオリンピック選手をめざしているわけでもありません。
そのため、勝利至上主義だけを軸にすると、強くない子や勝てない子はモチベーションが保ちづらく、次第にそのスポーツから離れてしまう可能性もあります。
せっかく興味を持って始めたにもかかわらず、「勝てなくてつらいから、もうやりたくない」と辞めてしまう。こんなに残念なことはありません。
実際、学生時代を通してフェンシングを続けてきた人でも、その後に競技を離れてしまうケースが多いのは、勝利至上主義の影響もあるのではないかと懸念しています。
だからこそ、スポーツに取り組む目的は「勝つことだけではない」と、私たちは考えています。
試合に出場するだけでも、そこには貴重な経験が数多くあります。
多様な相手との対戦経験、困難に立ち向かう意欲、自らの努力を信じる気持ち、プレッシャーとの向き合い方、仲間からの励まし、指導者や家族への感謝————
そのように、学べることは計り知れません。
つまり、そのスポーツに取り組んだことで何を得られたのか。
人生において何が残ったのか。
その価値こそ、大切にしていきたいと考えています。
フェンサーたちの心の拠り所になる場
以上のことを踏まえ、私たちはこの大会を、フェンサーの「心の拠り所になる場」にしたいと願っています。
もちろん大会の中心は試合ですが、対戦だけでなく、フェンサー同士の交流も深められる場にしたいと考えています。具体的には、出場選手の交流会や、海外フェンサーの歓迎パーティなども企画したいと思っています。
例えば、フェンシングを続けてきた選手が年に一度ここに集まれば、顔見知りも増えるでしょう。過去に対戦した海外選手と再会できるかもしれません。フェンシングに取り組む仲間の元気な姿を見て、
「フェンシングを楽しんでる?」
「また来年、東京国際大会で会おう!」
そんな会話が自然と生まれることを願っています。
フェンシングを続けることが、純粋に楽しい。
フェンシングに取り組むほど仲間が増え、世界が広がる。
そんなふうに、スポーツ本来の価値が存分に発揮される場にしたいと考えています。

スポーツによる多摩地域の活性化を
一方で、この大会開催により、ゆくゆくは「観光」という観点からの価値も創出したいと考えています。
近年、日本、とりわけ東京を訪れる外国人観光客は増加していますが、人気の観光地は渋谷・銀座・新宿・浅草・秋葉原など、中心部に偏っています。
三鷹・吉祥寺・八王子・高尾山などは、かろうじて需要があるものの、外国人観光客の多くが多摩地域に目を向けていないのが現状です。
そのような背景の中、今回の大会では事前合宿を試みました。海外フェンサーの参加は予想以上に多く、練習の合間に家族で周辺を観光する姿も見られました。
今回のような大会を、この多摩地域で継続的に開催することができれば、海外の方にこの地域を訪れてもらう1つのきっかけとなるのでは、と期待をしています。
実際に私たちは、今後の大会の日程に合わせて、多摩地域における家族向けの観光ツアーなども企画していきたいと思っています。
そうすることで、外国人観光客の狙いである「観光・ショッピング・グルメ」に加えて、「スポーツ」という新たな目的を創ることができると考えています。
例えば、ハワイのホノルルマラソンでは、マラソンを目的にしながら閑散期の観光需要を生み出しています。日本を訪れたいと考える潜在層にとっても、「国際大会」という明確な目的があれば、訪日の大きな後押しとなるでしょう。
つまり、大会開催を通じて「多摩地域の活性化」につながることも期待できると考えています。
以上のように、私たちはスポーツの価値を最大限活かしながら、フェンシングを通じてできることを、これからも追求していきたいと考えています。
今後の東京国際フェンシング大会において、もし協業できそうなことがあれば、ぜひご意見を寄せていただけると幸いです。私たちの思い描く未来について、ともに語り合える仲間が増えることを心より願っています。
